国潮(グオチャオ)とは
「国潮(グオチャオ・guócháo)」とは「国風潮流」の略語で、中国の伝統文化・歴史・美学と現代のポップカルチャーやデザインを融合させたムーブメントのことです。2018年頃に国内ファッション界で火がつき、コロナ禍を経てZ世代を中心に爆発的に広まりました。かつて「メイドインチャイナ」は低品質の代名詞として見られることもありましたが、国潮の登場により状況は一変。若者が自国のブランドに誇りを持ち、積極的に支持・購買するようになりました。
なぜ今、国潮なのか?——背景にある3つの要因
第一の要因は中国経済成長による文化的自信の高まりです。GDP世界第2位の経済大国となった中国では、若者が「中国のものは劣っている」という自己卑下意識から解放され、自国の文化・製品を誇りに思える土壌が生まれました。第二はSNSによる情報拡散力の飛躍的向上です。小红书・DouyinなどSNSの普及により、良質な国産ブランドが一夜にして全国的な話題となる環境が整いました。第三はコロナ禍が生んだ「国産回帰」です。海外旅行ができない時代に国内消費が活性化し、国産ブランドが再評価される機会が生まれました。
国潮を代表するブランド①——李寧(リーニン)
1990年バルセロナ五輪で活躍した中国の体操選手・李寧氏が創業したスポーツブランド「李寧(リーニン)」は、国潮を象徴する存在です。2018年にニューヨークファッションウィークに「悟道」コレクションで登場し、「中国」の大きな文字とドラゴンをあしらったストリートウェアで世界的な話題を呼びました。一時は業績低迷で苦しんでいた同社が、国潮ブームに乗って若者から熱烈な支持を集め、株価が数倍に跳ね上がりました。現在では若者向けのスポーツウェア・スニーカーとして国内外で確固たる地位を確立しています。
国潮を代表するブランド②——花西子(ファーシーズ)
「東洋の美学」をコンセプトにした国産コスメブランド「花西子(ファーシーズ)」は、精緻な彫刻模様が施されたパッケージデザインで小红书を席巻しました。2017年創業のブランドですが、KOLとのコラボ動画がバイラルヒットし、わずか数年で中国トップコスメブランドのひとつに成長。日本でも訪日中国人旅行者が大量購入することで話題になり、爆買い商品の定番となりました。価格帯は日本の中価格コスメと同程度ながら、プレミアムな見た目と品質が「自分へのご褒美」需要を捉えています。
「新中式」との違いと関係
国潮がブランドや商品への支持・消費行動を指すのに対し、「新中式(シンチョンシー)」はより広くライフスタイル全体における中国伝統文化の現代的再解釈を指します。新中式ファッション(漢服風の現代服)、新中式インテリア(古典的な木工芸×現代家具)、新中式カフェ(宋朝風の茶館スタイル)など、生活の美的感覚全体を変革するムーブメントです。国潮が「何を買うか」の変化なら、新中式は「どう生きるか」の変化とも言えます。
日本との関係——変わりゆく文化的力関係
国潮・新中式の盛り上がりは、日中の文化的な力関係にも変化をもたらしています。かつて日本のブランドや文化が中国で圧倒的な人気を誇っていた時代とは異なり、今の中国若者は自国の文化を世界に誇れるものと感じています。その一方で、日本の職人技・伝統工芸・ワビサビの美学への敬意は依然として高く、「日本的な品質や美意識を参考にしながら、中国らしさを追求する」という姿勢も見られます。
まとめ
国潮は単なる一時的な流行ではなく、中国の文化的自信と経済力が生み出した時代のムーブメントです。これを理解することで、現代中国の若者の価値観・消費行動・自文化への誇りをより深く理解できます。中国旅行・留学・ビジネスのいずれの目的であれ、「国潮」というキーワードを頭に入れておくことで、現代中国をより立体的に捉えることができるでしょう。
国潮と日本企業のビジネスチャンス
国潮ブームは日本企業にとってもビジネスチャンスを生み出しています。「伝統と現代の融合」という国潮のコンセプトは、日本の伝統工芸・職人技・和の美学との親和性が高く、日中コラボレーションの可能性が広がっています。実際に、日本の陶芸ブランドや和紙メーカーが国潮クリエイターとコラボし、中国市場で注目を集めるケースも出てきています。また、「日本品質×中国デザイン」という組み合わせは、高品質と文化的アイデンティティの両立を求める中国の若い消費者に響く可能性があります。国潮を「脅威」としてではなく「協働の機会」として捉えることが、日中ビジネスの新しい地平を開くかもしれません。
国潮と日本のポップカルチャーの関係
興味深いことに、国潮ブームは日本のポップカルチャーへの対抗意識から生まれた側面もあります。かつて中国の若者の間では日本・韓国・欧米のブランドが圧倒的な人気を誇っていましたが、近年は「なぜ外国のブランドを選ぶ必要があるのか」という意識の変化が起きています。一方で、国潮ブランドは日本のデザイン哲学(侘び寂びや機能美)から影響を受けているものも多く、対抗と尊重が複雑に絡み合っています。日中の若者文化の相互影響という視点から国潮を見ると、また新しい発見があります。