2023年秋頃から中国の小红书(小紅書)・抖音(Douyin)で爆発的に広まった「城市漫步(chéngshì màn bù)」というトレンドをご存知ですか?

直訳すると「都市の散歩・散策」。目的地を決めず、スマホを持ちながら街をゆっくり歩いて探索するというシンプルなアクティビティですが、中国の若者の間で「最もコスパの良い娯楽」として爆発的な人気を集めています。日本ではほとんど知られていないこの文化について、詳しく解説します。

「城市漫步」はなぜ流行ったのか?

背景には、コロナ禍明け後の中国社会で起きた価値観の変化があります。長期間の行動制限を経験した若者たちが「外に出て、街をじっくり感じたい」という欲求を持つようになりました。

同時に、「消费降级(しょうひこうきゅう:消費の格下げ)」と呼ばれる節約志向の高まりも後押ししています。旅行や高額な娯楽に使うお金を減らし、代わりに「お金をかけずに充実した時間を過ごす」ことを楽しむ文化です。城市漫步はその象徴で、かかるコストはスマホの通信費と歩く体力だけです。

小红书でのシティウォーク投稿スタイル

小红书では「城市漫步」タグで数千万件以上の投稿があります。典型的な投稿スタイルはこんな感じです:

  • 散歩コースのルートマップを手書き or スマホで作成してシェア
  • 街角の古い建物・隠れた路地・地元の食堂などを写真に収めて投稿
  • 「今日歩いた距離:8km、消費カロリー:400kcal、使ったお金:0元」といった記録系投稿
  • 知られていない「穴場スポット」や「映えスポット」の発見報告

特に人気なのが「老城区(古い市街地)」エリアの散歩。上海の武康路・北京の胡同(フートン)・成都の宽窄巷子(クァンザイシャンズ)など、近代化の波に飲まれずに残った古い街並みを歩くコンテンツが人気を集めています。

城市漫步が生んだ新しいビジネス

このトレンドに乗っかるビジネスも生まれています。

  • 「漫步地図」アプリ・サービス:シティウォーク専用のルート案内アプリが複数登場
  • 「散步咖啡(散歩カフェ)」:歩きながら飲めるテイクアウトコーヒー専門店が急増
  • ガイド付きシティウォークツアー:地元のガイドが隠れた名所を案内する有料ツアー(小红书経由で集客)
  • 「城市漫步手账(手帳)」:歩いた記録をまとめる専用手帳・ステッカーのグッズ販売

日本の「街歩き」文化との違い

日本にも「まち歩き」「ぶらり旅」という文化はありますが、中国の城市漫步には独自の特徴があります。

最大の違いは「SNS前提」という点。日本の街歩きは個人の趣味として完結することが多いですが、城市漫步は「歩いた内容を小红书や抖音で発信すること」がセットになっています。「見せるために歩く」「発信するために探索する」という構造が、ブームを加速させた大きな要因です。

また、中国の若者の間では「搭子文化(タズ文化)」と組み合わせた「漫步搭子(散歩専用の友達を作って一緒に歩く)」という文化も生まれており、孤独感の解消と趣味の共有を同時に叶えるコミュニティ的側面も持っています。

旅行者・留学生にもおすすめ:中国でシティウォークを楽しむコツ

  • 小红书で「都市名+漫步路线」と検索:地元の人が作ったおすすめコースが大量に見つかります
  • 朝早い時間帯がベスト:観光客が少なく、地元の日常生活を観察できます
  • Google Mapsより百度地図(Baidu Maps)を使う:中国ではGoogle Mapsが使えない場面もあるため、百度地図をインストールしておくと便利
  • Alipay・WeChat Payを準備:散歩途中に入った路地裏の店でもキャッシュレス決済が基本です

まとめ

「城市漫步」は、大陸の若者が生み出したシンプルかつ奥深いライフスタイルです。お金をかけず、スマホを持ち、街をゆっくり歩くだけ。その中に中国社会の変化・若者の価値観・SNS文化が凝縮されています。

中国を旅行する際は、観光スポットを駆け足で回るだけでなく、ぜひ「漫步」感覚で街をぶらついてみてください。予定外の発見が、最高の旅の思い出になるかもしれません。

城市漫步と「反向旅游」の組み合わせ:逆張り旅行という新潮流

城市漫步と同時期に流行した「反向旅游(fǎn xiàng lǚyóu:逆張り旅行)」という概念もあわせて紹介します。これは「有名観光地を避け、混んでいない地方都市・穴場エリアを旅する」という旅行スタイルです。

連休に北京・上海・成都などの人気観光地が激混みする一方、すぐ近くにある小さな地方都市は閑散としている──その「格差」に着目した若者たちが「混雑した名所より、誰も行かない街のほうが面白い」という価値観を小红书で発信し始めたのが起点です。

城市漫步×反向旅游が生む「新しい中国旅行の楽しみ方」

この2つのトレンドが組み合わさることで、「観光スポットを制覇する旅行」から「街の日常に溶け込む旅行」へのシフトが中国国内で起きています。日本を訪れる中国人観光客にも同様のシフトが見られ、東京・京都の定番コースから、地方都市・隠れた商店街・路地裏の食堂といったコンテンツを小红书で探して訪れるスタイルが広まっています。

日本側のインバウンド対策としても、「小红书に載っていない穴場を発信する」ことが効果的なマーケティングになりつつあるのは、このようなトレンド変化が背景にあります。


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